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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)8505号 判決 1968年7月25日

原告

有限会社天野青柳

被告

秋庭胖

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し、二一九、九〇九円およびこれに対する昭和四二年八月二三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金銭を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

一、当事者の求める裁判

原告―主文同旨の裁判

被告ら―「請求棄却、訴訟費用は原告負担」との判決

二、請求原因

(一)  交通事故の発生

昭和四一年一二月一八日午後九時四〇分頃、東京都世田谷区下馬町三丁目二九番地先十字路において、被告今泉が被告秋庭を同乗させプリンス四一年型自動車(相模五さ九〇九九号、以下被告車という。)を運転中、一時停止義務を怠つたため訴外山口滋運転の乗用車と接触し、被告車を附近の原告所有の菓子店舗に突入させた。

(二)  被告らの地位

被告秋庭は医師で被告車を所有し、被告今泉は電車運転者であるが、被告秋庭は近距離の往診には自ら被告車を運転し遠距離の往診または保養等に際しては、被告今泉を雇い、これに被告車を運転させていたものであり、現に前記事故発生当時も、被告秋庭が被告今泉に被告車を運転させ、保養のため上京した帰途であつた。

(三)  原告の蒙つた損害

原告は本件事故により、その店舗、商品および格納中の自動車を損壊され、かつ六日間にわたる休業を余儀なくされたところ、被告らは右損害中左記損害合計二一九、九〇九円につき賠償しない。

商品(モロゾフ製品) 二〇、三六〇円

同(せんべい) 一六、二二〇円

店舗硝子戸三枚 二二、六五〇円

店舗硝子戸修理三枚 一、一四〇円

店舗硝子大小各三枚 一〇、八〇〇円

配線取付工事 二、五〇〇円

自動車修理代 九二、三八〇円

休業による損失 五三、八五九円

(四)  よつて原告は、被告今泉に対しては直接の不法行為者として、被告秋庭に対してはその使用者として各自右合計二一九、九〇九円およびこれに対する本件不法行為後であり、本訴状送達の日の翌日である昭和四二年八月二三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、被告らの答弁

請求原因(一)は認める。

請求原因(二)のうち被告秋庭と被告今泉との関係が使用者対被用人であるとの点を否認し、その余の事実を認める。

請求原因(三)は不知

四、証拠 〔略〕

理由

一、責任原因

請求原因(一)の事実は当事者間に争がなく、同(二)の事実中、被告らが雇傭関係にある点を除き、当事者間に争がない。

〔証拠略〕によれば、被告今泉は訴外東京急行電鉄株式会社に電車運転士として勤務する者であるが、かねて自動車運転免許も受け、余暇にいわゆる陸送の内職をしていたところ、右訴外会社の嘱託医であつた被告秋庭と昭和二三、四年頃からまず患者として知り合い、その後四、五年前から車両やドライブについて興味と関心を共にするため別懇の間柄となり、さらに数年前からは、被告秋庭の依頼をうけ、本件事故発生当時までに六、七回にわたり、時には訴外会社を欠勤したりしていずれも被告車を運転して患者の送迎や温泉地への周遊等に従事同行していたこと、これらの場合被告秋庭から金銭対償をうけることは稀で、多くは物品による謝礼であつたが、被告秋庭は屡被告今泉に対して、自動車整備、修理等の仕事で独立自営すべきことを勧奨すると共に、暗に資金面等で援助庇護すべきことを示唆していたので、被告今泉は運転依頼に応じまたはその命に従つていたこと、本件事故当夜も被告秋庭の発案で、演芸見物のため上京することになり、被告今泉がその妻と被告秋庭を同乗させて被告車を運転し、まず通称明治座に赴いたところ、入場券が売り切れていたため、渋谷在の通称文化会館に行き、その帰途本件事故を惹起したことこの間運転先の決定は被告秋庭がしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば被告秋庭は被告今泉に対し被告車の運転につき指揮命令をなし、被告今泉はこれに服する関係に在る者と認められる。

二、損害額

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故により、その主張の費目および額どおり、合計二一九、九〇九円の損害を蒙つたことが認められる。

三、結語

よつて被告らは各自原告に対し、二一九、九〇九円およびこれに対する本件不法行為後であり、本訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四二年八月二三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、原告の本訴請求は正当として全部認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 薦田茂正)

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